はじめに ― 3時間の流れ
座学では、費用構造の見方、見積精査の手順、長期割引や為替の考え方といった一般的な勘どころを扱います。ここまでは、どの団体でも共通する内容です。一方で「では自分たちの契約はどうなっているのか」「その手法は自団体に適用できるのか」は、手元の資料を開いて確かめるほかありません。この日は、そこを実践に落とすための時間として組んでいます。
全体は、短い解説と個別ワークを交互に置き、その間にグループでの比較とアイデア出しを挟む構成です。最後に計画のドラフトまで書き切って終わります。

この回は都道府県が主催して複数の市町村に集まっていただいたので、グループは、同じベンダーと契約している団体どうし、あるいは団体規模が近いところどうしで組みました。作業内容とコストの相互比較を行い、そのうえで計画の実現に向けたアイデア出しをしていただく、という2本立てのグループワークです。同じ条件に近い相手と並べたほうが、差分がそのまま検討材料になります。
何をまとめるか
冒頭で確認するのは、この3時間で何をまとめるのかです。作るものは3つ。費用の全体像、ベンダーへそのまま送れる質問・依頼リスト、そして最適化計画のドラフト。

完璧に埋めることは目的にしていません。理由は2つあります。1つは、3時間で自団体の契約すべてを精査しきることが物理的に難しいことです。もう1つは、この段階で埋まらない箇所には意味があるためです。数字が出せないのは資料が手元にないからで、内訳が書けないのは見積に内訳が示されていないから。つまり空欄は、そのままベンダー・県・支援者に確認すべきことのリストになります。空欄をなくすことより、「決めたこと」と「確認してから決めること」が分かれている状態のほうが、次の一手につながります。
運用経費の最適化の対象は、ガバメントクラウドだけではない
もう一つ最初に共有するのが、何を最適化の対象とするかです。運用経費の話になるとクラウド利用料に目が向きがちですが、費用は3層でできています。クラウド費用(ガバメントクラウド利用料)が全体の3割ぐらいで、残りをパッケージ費用と運用費用が占める、という団体が多いようです。

ここで押さえておきたいのは、クラウド費用だけを詰めても届く範囲が限られることです。仮にガバメントクラウド利用料をゼロにできたとしても、標準化前の費用水準まで戻るわけではありません。そして従量課金である以上、利用料がゼロになること自体ありえません。大きな削減を狙うのであれば、運用保守とパッケージまで含めた費用全体を最適化の対象に置く必要があります。
パッケージはベンダーを変えない限り動かしにくい一方、運用・保守は仕様の明確化と交渉で動かせる余地が大きい領域です。
比率はあくまで目安なので、自団体の実際の割合を出すところから始めていただきます。最初の個別ワークは、3層×ASPのマトリクスに見積書と運用レポートの合計額を転記する作業です。1円単位の精緻さは求めず、概算・桁感で構いません。標準化前(令和5年頃)の金額を分かる範囲で横に並べていただくと、どこが増えたのかが1枚で見えるようになります。
検討ポイント① 分からない見積と曖昧な仕様を見つける
出発点は、中身を説明できない見積行を見つけることです。説明の責任は見積を出した側にあるので、分からない箇所があること自体は問題になりません。名前だけで中身が言えないもの、「一式」計上で数量・単価・人日がないもの、構成が変わっていないのに前年から金額が動いているもの。この3つに当てはまる行に印を付けていきます。

仕様書のほうも同じ要領で、「一式」「適切に」「必要に応じて」「別途協議」といった要注意ワードを拾い、それを問い直しの形に変換します。「運用管理業務 一式」なら作業項目・頻度・工数の一覧を求める文へ。ここで書き出したものが、次のワークでそのままベンダーへの質問・依頼文になります。
検討ポイント② 見積精査の技法
精査の手順は4ステップです。必要情報を揃え、コスト上位から構成と用途を確認し、分からない点を質問文にまとめ、回答を根拠に削減可否を判断する。本当に無駄かどうかは設計の意図を聞かないと分からないので、当日はSTEP3の質問リストづくりまでを仕上げ、STEP4はベンダーとのやりとりとして、この日のあとに進めていただきます。

解説では、スペック過剰、マルチAZの範囲、検証環境の稼働時間、長期割引の適用、為替の方式、Budgets・異常検知の設定状況といった観点を順に当てていきます。ただ、ここは自団体だけで完結する領域ではありません。構成の妥当性を判断するにも、ベンダーの回答が妥当かを見極めるにも、AWSの設計を読める人手が要ります。当日お渡ししているのは「どこを聞くか」までで、その先は外部の有識者に入ってもらうか、ベンダーに試算を依頼するか、いずれかの形で進めていただくことになります。ワークショップの成果物を質問・依頼リストの形にしているのは、そのまま相手に渡せるようにするためです。
もう一つの壁が、共同利用方式では管理コンソールを直接見られないことです。中で何が動いていて、どのくらい使われているのかが分からなければ、スペックの適正化も、構成の見直しも、長期割引の判断もできません。無駄を見つける以前に、見つけるための材料が手元に無い状態です。ここを埋めるには、稼働状況を運用レポートとして定期的に出してもらう枠組みを契約に入れるか、コスト可視化ツールを導入して自団体側から見えるようにするか、どちらかが要ります。
ただし、可視化そのものが目的になると、数字は見えるのに何をすればよいのか分からない状態で止まります。見えたコストに対して、どこが最適化の対象になるのか、その打ち手にどれくらいの効果が見込めるのかまで示せること。そこまで含めて仕組みとして用意しておかないと、見える化した先で手が止まります。
検討ポイント③ 計画に落とす
最後のワークが計画づくりです。目標については、削減額だけが目標ではないという整理から入ります。コスト削減、ベンダー間調整や報告作業の負担軽減、そして費用の中身を説明できる状態にする透明化。3つとも選んでいただいて構いません。明確な数値目標を置けない場合は「できるだけやる」で開始し、手法を洗い出して効果見込みを積み上げてから数値を決める順序でも進められます。
前提条件も先に仮決めしておきます。ベンダー変更の可否を「変更しない/一部業務なら検討/条件次第で検討/積極的に検討」の4段階のどこに置くか。ここを0か100かではなく程度で置いておかないと、実行できない打ち手ばかりが並ぶ計画になります。
施策を選ぶ材料として、打ち手を一覧にしたものをお配りしています。

これはあくまでサンプルです。載っているものを全部やる必要はありませんし、最適化の方法がこの一覧に限られるわけでもありません。自団体の状況に合うものを選び、無ければ書き足していただく、という使い方を想定しています。
もう一つお伝えしているのが、着手を早めることです。ここに並ぶ打ち手は、決めた月にそのまま効くものばかりではありません。内訳の開示を依頼して回答が返るまでに数週間、長期割引の試算と適用判断にさらに数週間かかりますし、仕様書の見直しとなれば次の更改を待つことになります。相手のあるやり取りと交渉が挟まる以上、効果が数字に出るのは着手の何か月も先です。時間のかかる打ち手ほど先に動かしはじめる、という順序で計画に置いていただくようお願いしています。
あわせて、最適化をどう続けるかも決めておきます。ここでお伝えしているのは、毎月ダッシュボードを見て会議を回すようなやり方が、多くの団体にとって現実的ではないということです。かける労力に対して、そこから追加で削れる額が見合いません。それよりも、まず1年かけて大きな無駄を洗い出して削ぎ落とし、その後は同じ規模の無駄が積み上がらないよう定期的に点検する、という組み立てのほうが続きます。

3時間の終わりに手元にできるのは、こういう1枚です。

ワークショップのあとと、お手伝いできること
クロージングでは、この後の流れを確認して終わります。2週間以内に質問・依頼をベンダーへ送付し、翌月に回答を反映して庁内で共有し、秋以降に削減計画へ仕上げる。まとめた3つは、そのまま庁内共有・ベンダー協議・補助金の削減計画の素案として使えます。時間軸を意識しているのは、補助が切れたあとの運用経費が全額自主財源になるためです。補助期間のうちに構造を見直して来年度予算に反映できるかどうかで、その後の負担が変わってきます。
このワークショップは、ガバメントクラウド研修の一部としてお引き受けしています。座学で勘どころを扱ってからワークショップに入る組み合わせにすることも、勘どころをすでにお持ちの団体向けにワークショップだけを単独で実施することもできます。今回のように県や広域で複数団体を集めていただくと、比較の場が自然にでき上がります。
自団体で手を動かす時間が取りにくい場合や、精査そのものを外に出したい場合は、単発のパッケージもあります。

継続的に回す段階では、コスト可視化の仕組みが要ります。内訳を月次で手元から見られること、落とし忘れや急増に請求書より前に気づけること、打ち手の効果を数字で確認できること。この3つに2つ以上「いいえ」が付くようなら、ツールの導入を検討していただく段階です。自治体向けのAWSコスト最適化SaaSとして、当社でもOptSightを開発しています。

総務省「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」のアドバイザー制度を使えば、自治体側の費用負担なしで相談や研修を受けていただけます。まずは自団体の見積書を1枚開いて、これはどういう意味かという壁打ちからでも構いませんので、軽い気持ちでお声がけください。
運用経費の最適化を、一緒に始めませんか
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