nice2have 活動レポート 標準化・ガバメントクラウドの運用経費最適化ワークショップ ― 見積・仕様書・構成図を精査して削減計画のドラフトまで

nice2have合同会社 中島淳之介 2026年8月 #ガバメントクラウド #運用経費最適化 #FinOps #自治体DX

運用経費最適化の一般的な勘どころは座学でお話ししています。ただ、それを自分たちの契約に当てはめるとどうなるのかは、実際の資料を開いてみないと分かりません。このワークショップは、参加者の皆さまにご自身の団体の見積書・仕様書・構成図を持ち込んでいただき、3時間で削減計画のドラフトまでをまとめる場です。当日どんな流れで、どんなポイントを扱っているのかをご紹介します。

はじめに ― 3時間の流れ

座学では、費用構造の見方、見積精査の手順、長期割引や為替の考え方といった一般的な勘どころを扱います。ここまでは、どの団体でも共通する内容です。一方で「では自分たちの契約はどうなっているのか」「その手法は自団体に適用できるのか」は、手元の資料を開いて確かめるほかありません。この日は、そこを実践に落とすための時間として組んでいます。

全体は、短い解説と個別ワークを交互に置き、その間にグループでの比較とアイデア出しを挟む構成です。最後に計画のドラフトまで書き切って終わります。

運用経費最適化ワークショップ 3時間のタイムテーブル
13:30〜16:30の進行。解説・個別ワーク・グループディスカッション・全体共有を組み合わせている。

この回は都道府県が主催して複数の市町村に集まっていただいたので、グループは、同じベンダーと契約している団体どうし、あるいは団体規模が近いところどうしで組みました。作業内容とコストの相互比較を行い、そのうえで計画の実現に向けたアイデア出しをしていただく、という2本立てのグループワークです。同じ条件に近い相手と並べたほうが、差分がそのまま検討材料になります。

何をまとめるか

冒頭で確認するのは、この3時間で何をまとめるのかです。作るものは3つ。費用の全体像、ベンダーへそのまま送れる質問・依頼リスト、そして最適化計画のドラフト。

ワークショップでまとめる3つの成果物:費用の全体像・質問依頼リスト・最適化計画のドラフト
①費用の全体像 ②ベンダーへの質問・依頼リスト ③最適化計画のドラフト。

完璧に埋めることは目的にしていません。理由は2つあります。1つは、3時間で自団体の契約すべてを精査しきることが物理的に難しいことです。もう1つは、この段階で埋まらない箇所には意味があるためです。数字が出せないのは資料が手元にないからで、内訳が書けないのは見積に内訳が示されていないから。つまり空欄は、そのままベンダー・県・支援者に確認すべきことのリストになります。空欄をなくすことより、「決めたこと」と「確認してから決めること」が分かれている状態のほうが、次の一手につながります。

運用経費の最適化の対象は、ガバメントクラウドだけではない

もう一つ最初に共有するのが、何を最適化の対象とするかです。運用経費の話になるとクラウド利用料に目が向きがちですが、費用は3層でできています。クラウド費用(ガバメントクラウド利用料)が全体の3割ぐらいで、残りをパッケージ費用と運用費用が占める、という団体が多いようです。

運用経費の3層構造。クラウド利用料は3割ぐらいで、運用保守とパッケージが残りを占める
クラウド費用・パッケージ費用・運用費用の3層。比率はASP・団体によって異なる。

ここで押さえておきたいのは、クラウド費用だけを詰めても届く範囲が限られることです。仮にガバメントクラウド利用料をゼロにできたとしても、標準化前の費用水準まで戻るわけではありません。そして従量課金である以上、利用料がゼロになること自体ありえません。大きな削減を狙うのであれば、運用保守とパッケージまで含めた費用全体を最適化の対象に置く必要があります。

パッケージはベンダーを変えない限り動かしにくい一方、運用・保守は仕様の明確化と交渉で動かせる余地が大きい領域です。

比率はあくまで目安なので、自団体の実際の割合を出すところから始めていただきます。最初の個別ワークは、3層×ASPのマトリクスに見積書と運用レポートの合計額を転記する作業です。1円単位の精緻さは求めず、概算・桁感で構いません。標準化前(令和5年頃)の金額を分かる範囲で横に並べていただくと、どこが増えたのかが1枚で見えるようになります。

検討ポイント① 分からない見積と曖昧な仕様を見つける

出発点は、中身を説明できない見積行を見つけることです。説明の責任は見積を出した側にあるので、分からない箇所があること自体は問題になりません。名前だけで中身が言えないもの、「一式」計上で数量・単価・人日がないもの、構成が変わっていないのに前年から金額が動いているもの。この3つに当てはまる行に印を付けていきます。

中身を説明できない見積行を見つける3つのシグナル
「わからない見積」の3つのシグナル。赤丸を付けた行を、そのままシート1「不明見積リスト」へ転記する。

仕様書のほうも同じ要領で、「一式」「適切に」「必要に応じて」「別途協議」といった要注意ワードを拾い、それを問い直しの形に変換します。「運用管理業務 一式」なら作業項目・頻度・工数の一覧を求める文へ。ここで書き出したものが、次のワークでそのままベンダーへの質問・依頼文になります。

検討ポイント② 見積精査の技法

精査の手順は4ステップです。必要情報を揃え、コスト上位から構成と用途を確認し、分からない点を質問文にまとめ、回答を根拠に削減可否を判断する。本当に無駄かどうかは設計の意図を聞かないと分からないので、当日はSTEP3の質問リストづくりまでを仕上げ、STEP4はベンダーとのやりとりとして、この日のあとに進めていただきます。

見積精査の基本手順4ステップ
STEP1 必要情報の収集 → STEP2 コスト上位から精査 → STEP3 質問事項の整理 → STEP4 回答をもとに削減判断。

解説では、スペック過剰、マルチAZの範囲、検証環境の稼働時間、長期割引の適用、為替の方式、Budgets・異常検知の設定状況といった観点を順に当てていきます。ただ、ここは自団体だけで完結する領域ではありません。構成の妥当性を判断するにも、ベンダーの回答が妥当かを見極めるにも、AWSの設計を読める人手が要ります。当日お渡ししているのは「どこを聞くか」までで、その先は外部の有識者に入ってもらうか、ベンダーに試算を依頼するか、いずれかの形で進めていただくことになります。ワークショップの成果物を質問・依頼リストの形にしているのは、そのまま相手に渡せるようにするためです。

もう一つの壁が、共同利用方式では管理コンソールを直接見られないことです。中で何が動いていて、どのくらい使われているのかが分からなければ、スペックの適正化も、構成の見直しも、長期割引の判断もできません。無駄を見つける以前に、見つけるための材料が手元に無い状態です。ここを埋めるには、稼働状況を運用レポートとして定期的に出してもらう枠組みを契約に入れるか、コスト可視化ツールを導入して自団体側から見えるようにするか、どちらかが要ります。

ただし、可視化そのものが目的になると、数字は見えるのに何をすればよいのか分からない状態で止まります。見えたコストに対して、どこが最適化の対象になるのか、その打ち手にどれくらいの効果が見込めるのかまで示せること。そこまで含めて仕組みとして用意しておかないと、見える化した先で手が止まります。

検討ポイント③ 計画に落とす

最後のワークが計画づくりです。目標については、削減額だけが目標ではないという整理から入ります。コスト削減、ベンダー間調整や報告作業の負担軽減、そして費用の中身を説明できる状態にする透明化。3つとも選んでいただいて構いません。明確な数値目標を置けない場合は「できるだけやる」で開始し、手法を洗い出して効果見込みを積み上げてから数値を決める順序でも進められます。

前提条件も先に仮決めしておきます。ベンダー変更の可否を「変更しない/一部業務なら検討/条件次第で検討/積極的に検討」の4段階のどこに置くか。ここを0か100かではなく程度で置いておかないと、実行できない打ち手ばかりが並ぶ計画になります。

施策を選ぶ材料として、打ち手を一覧にしたものをお配りしています。

運用経費最適化の打ち手カタログ(サンプル)
打ち手カタログ。効果・難易度・時期・依頼先の目安を添えている。

これはあくまでサンプルです。載っているものを全部やる必要はありませんし、最適化の方法がこの一覧に限られるわけでもありません。自団体の状況に合うものを選び、無ければ書き足していただく、という使い方を想定しています。

もう一つお伝えしているのが、着手を早めることです。ここに並ぶ打ち手は、決めた月にそのまま効くものばかりではありません。内訳の開示を依頼して回答が返るまでに数週間、長期割引の試算と適用判断にさらに数週間かかりますし、仕様書の見直しとなれば次の更改を待つことになります。相手のあるやり取りと交渉が挟まる以上、効果が数字に出るのは着手の何か月も先です。時間のかかる打ち手ほど先に動かしはじめる、という順序で計画に置いていただくようお願いしています。

あわせて、最適化をどう続けるかも決めておきます。ここでお伝えしているのは、毎月ダッシュボードを見て会議を回すようなやり方が、多くの団体にとって現実的ではないということです。かける労力に対して、そこから追加で削れる額が見合いません。それよりも、まず1年かけて大きな無駄を洗い出して削ぎ落とし、その後は同じ規模の無駄が積み上がらないよう定期的に点検する、という組み立てのほうが続きます。

FinOpsの実施深度レベル1〜3と頻度の目安
レベル1「見張る」(年1回)/レベル2「見直す」(四半期)/レベル3「作り込む」(毎月)。

3時間の終わりに手元にできるのは、こういう1枚です。

最適化計画シートの記入例。目標・前提条件・施策一覧・分担と期限まで書き込んだ状態
計画シートの記入例。空欄が残っても、決めたことと確認してから決めることが分かれていれば計画になる。

ワークショップのあとと、お手伝いできること

クロージングでは、この後の流れを確認して終わります。2週間以内に質問・依頼をベンダーへ送付し、翌月に回答を反映して庁内で共有し、秋以降に削減計画へ仕上げる。まとめた3つは、そのまま庁内共有・ベンダー協議・補助金の削減計画の素案として使えます。時間軸を意識しているのは、補助が切れたあとの運用経費が全額自主財源になるためです。補助期間のうちに構造を見直して来年度予算に反映できるかどうかで、その後の負担が変わってきます。

このワークショップは、ガバメントクラウド研修の一部としてお引き受けしています。座学で勘どころを扱ってからワークショップに入る組み合わせにすることも、勘どころをすでにお持ちの団体向けにワークショップだけを単独で実施することもできます。今回のように県や広域で複数団体を集めていただくと、比較の場が自然にでき上がります。

自団体で手を動かす時間が取りにくい場合や、精査そのものを外に出したい場合は、単発のパッケージもあります。

ガバメントクラウド運用経費 単発精査パッケージの内容と進め方
資料をお送りいただき、精査とヒアリングを経て、精査報告書と実行計画を納品する形。

継続的に回す段階では、コスト可視化の仕組みが要ります。内訳を月次で手元から見られること、落とし忘れや急増に請求書より前に気づけること、打ち手の効果を数字で確認できること。この3つに2つ以上「いいえ」が付くようなら、ツールの導入を検討していただく段階です。自治体向けのAWSコスト最適化SaaSとして、当社でもOptSightを開発しています。

nice2have合同会社のサービス一覧:プロダクト・伴走アドバイザリー・研修
当日の最後にお見せしている一覧。プロダクト・伴走/アドバイザリー・研修の3本立て。

総務省「地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業」のアドバイザー制度を使えば、自治体側の費用負担なしで相談や研修を受けていただけます。まずは自団体の見積書を1枚開いて、これはどういう意味かという壁打ちからでも構いませんので、軽い気持ちでお声がけください。

運用経費の最適化を、一緒に始めませんか

総務省 地方公共団体の経営・財務マネジメント強化事業のアドバイザー制度を通じたご相談は、自治体側の自己負担なしでご利用いただけます。
運用経費最適化ワークショップ、単発の見積精査、コスト可視化まで、貴団体の状況に合わせて構成します。

お問い合わせ:lg@nice2h.com

他のコラム・ブログ記事

AI駆動開発研修(第1回)― システムの裏側から業務の見直し方まで、一日で扱ったこと
活動レポート

AI駆動開発研修(第1回)― システムの裏側から業務の見直し方まで、一日で扱ったこと

システムの裏側、AIと国の動向、AIを安全に使う型、適用対象の見つけ方。作る前に押さえておきたいことを一日で扱い、最後のワークショップで次回のお題を決めていただきました。ある自治体で実施した全2回研修・第1回の記録です。

読む →
年間アドバイザーでは、こんなことをしています ― 定例会の資料から
活動レポート

年間アドバイザーでは、こんなことをしています ― 定例会の資料から

年間契約の前半は、まるごと棚卸しに使います。情報資産・ポリシー・組織環境を整理して判断の前提条件を共通認識にし、国の動向を並べ、クラウドやAIのハンズオン研修で「使うとどうできるか」を体感していただく。それが揃ったところで、今後の進め方を考える。定例会の資料をもとに、その流れをご紹介します。

読む →
自治体DXの公開事例を、5系統・約25類型で整理してみた ― うちはどこから手をつけるべきか
公開資料

自治体DXの公開事例を、5系統・約25類型で整理してみた ― うちはどこから手をつけるべきか

総務省・デジタル庁の公表事例を5系統・約25類型に整理した12枚を公開します。各ページに「自団体で検討すべきこと」を3つ添えた構成で、資料の中でどんな内容を、どんな順で扱っているかをご紹介します。

読む →
自治体のAI利用ポリシー ― 解説資料では、こんな順で説明しています
解説

自治体のAI利用ポリシー ― 解説資料では、こんな順で説明しています

策定支援でお配りしている解説資料と、検討会用の記入シートがあります。総務省がひな形をWordで公開していること、自団体が決めるのは15項目で山場は3つであること、着手は体制→文書→運用の順であること。資料で何を、どんな流れで説明しているかをご紹介します。

読む →
「だまされない庁内」のつくり方 ― 最新事例で学ぶ、自治体職員向けセキュリティ研修
活動レポート

「だまされない庁内」のつくり方 ― 最新事例で学ぶ、自治体職員向けセキュリティ研修

USB10,757本の全数調査、委託先社員によるPC83台の持ち出し、MFAのない1つのID。ここ1年に公表された事案と、いま引っかかりやすい手口を軸に組み立てた職員向けセキュリティ研修の記録です。どんなポイントを、どんなスライドで扱っているかをまとめました。

読む →
来年度に打つ「一手」が見える60分 ― nice2have Spotlight #01 開催レポート
活動レポート

来年度に打つ「一手」が見える60分 ― nice2have Spotlight #01 開催レポート

運用経費・情報資産の棚卸し・生成AI。重点計画が置いた4つの論点から、来年度予算のスケジュールで逆算した打ち手の全体像へ。申込136名のオンラインセミナーの記録です。

読む →
自治体職員向けAI駆動開発研修(第2回)― 職員が自分の手でAWS公開まで
活動レポート

自治体職員向けAI駆動開発研修(第2回)― 職員が自分の手でAWS公開まで

「PCの中のツール」を、部内・全庁に共有できる形へ。VPCの手動構築からS3公開、そして月9,000円と数百円の差まで。ある自治体で実施した全2回ハンズオン研修・第2回の記録です。

読む →
情報資産台帳を「作って終わり」にしないために ― GovLensという答え
GovLens

情報資産台帳を「作って終わり」にしないために ― GovLensという答え

台帳化・可視化・妥当性判断・最適化のサイクルを、AIで「続く仕組み」に変える。情報資産台帳がなぜ形骸化するのか、その答えとして作ったGovLensの話。

読む →
AWSコストを「可視化」から「最適化」へ ― OptSightを作った理由
OptSight

AWSコストを「可視化」から「最適化」へ ― OptSightを作った理由

ガバメントクラウド移行後に高騰する運用経費。可視化から一歩進んだ「最適化」を、読み取り専用で安全に。OptSightを作った理由を綴ります。

読む →
自治体職員向けAI駆動開発研修(第1回)を実施しました
活動レポート

自治体職員向けAI駆動開発研修(第1回)を実施しました

「委託に出すほどではない困りごと」を、我慢する対象から解決できる対象へ。ある自治体で実施した全2回ハンズオン研修・第1回の記録です。

読む →
自治体のAIアプリづくりに、共通の土台を。AI開発・運用基盤〈源内〉を、誰でも触れる実験場〈ひふみAI〉として公開します
サービス紹介

自治体のAIアプリづくりに、共通の土台を。AI開発・運用基盤〈源内〉を、誰でも触れる実験場〈ひふみAI〉として公開します

〈源内〉って結局なに? いつ使うと便利で、どういう仕組みなの? ── AIアプリを「源内の作法」で作れば、認証・画面・履歴・予算管理といった土台がそろっていて、楽に作れて運用できる。そんな自治体向けAI開発・運用基盤〈源内〉を、誰でもまず触って体感できる実験場〈ひふみAI〉として公開しました。lg.jpドメインのメールアドレスをお持ちの自治体職員の方は無料でお試しいただけます。123ai.nice2h.com

読む →
標準化の「次」へ ― これからの自治体アドバイザー事業の方向性と新メニュー
コラム

標準化の「次」へ ― これからの自治体アドバイザー事業の方向性と新メニュー

標準化・ガバメントクラウドの「次」に、価値の中心は「運用・活用・守り」へ移ります。nice2haveは、セキュリティの転換(ゼロトラスト)/AIの庁内活用(源内・Bedrock)/AIガバナンス・体制づくりの3つの軸を、座学で終わらせないハンズオン型で展開。今後提供予定の新メニューと事業の方向性をご紹介します。

読む →
自治体向けAWSコスト最適化ダッシュボード「OptSight」を公開しました
サービス紹介

自治体向けAWSコスト最適化ダッシュボード「OptSight」を公開しました

「AWSコストを『可視化』から『最適化』へ。」自治体の情報システム部門・経営/予算管理部門向けに、AWS運用経費の可視化・EC2稼働監視・長期割引シミュレーション・AI削減提案・月次レポート自動生成を一画面でまとめるSaaSダッシュボードを optsight.jp にて公開しました。

読む →

← 記事・コラム一覧に戻る