
この資料をつくった理由
自治体DXやAI活用について、何をどう進めればよいかのヒントがつかみにくい、というお話をよく伺います。他団体の取り組みを見て自団体で何ができるかを考える方法もあれば、うまくいっている形をそのまま取り入れる方法もあります。どちらも有効な進め方ですが、その入口になる材料が手元にまとまっていないことが多いようです。次の一手を考えるきっかけにしていただくために、公表されている事例を整理しました。
枠は5つの系統・約25類型にしています。①住民サービス向上(フロントヤード改革)、②職員業務効率化(内部DX)、③基盤・データ連携、④地域・まちづくり、⑤推進体制・人材の5つです。枠に当てはめていくと、①ばかりで②が手つかず、①〜④は動いているのに⑤だけ真っ白、といった自団体の偏りが見えてきます。各ページには「自団体で検討すべきこと」を3つずつ添えました。
1枚目 ― 現在地の確認
最初に扱うのは、生成AIの導入率の格差と、国の資料の揃い方です。生成AIの導入率は、都道府県と指定都市が100%、その他の市区町村が46%。実証中・導入予定・検討中まで含めれば、約88%が何かしら動いてはいます。
判断材料の側は2025年に出揃いました。5月にフロントヤード改革推進手順書【第1.0版】、6月にDX全体手順書【第5.0版】と参考事例集【第3.0版】、12月にDX推進計画【第5.0版】。方針・進め方・実例の3点セットです。
先に走った団体がつまずいた箇所も、実測した削減時間も公開されています。これから着手する団体は、その材料をそのまま使えます。出ているものを積極的に活用していくことは、あとから取り組む側の強みだと考えています。

窓口DX ― 目的の置き方で結果が変わる
この資料でいちばん議論になるページです。窓口DXは「住民が来なくて済むようにすること」と理解されがちですが、それを目的に据えた取り組みは失敗を繰り返してきました。旧・旅券電子申請は利用者133人に対して費用21億円(1件あたり1,600万円)で早期廃止。農水省のe-MAFFは約3,300手続をオンライン化して令和3年度の利用率が0.3%。法人設立ワンストップでは、気軽なオンライン申請が増えた結果、書類不備の補正指導で職員の工数がかえって増えました。
ここでお伝えしたいのは、何のためにやるのかを先に置いておく必要がある、という点です。資料では一例として、目的を「一度聞いた情報を二度聞かない」ほうへ置き直す考え方を示しています。住民の来庁体験はそのままに、職員がその場で聞き取ってタブレットに入力し、連携基盤に蓄積して、別の課では同じことを聞き直さないようにします。来庁を前提にして最小限の連携基盤に論点を絞ると、数万人規模の団体でも投資額の桁が変わります。手段から入ると同じ失敗を繰り返しやすいという点は、以降の系統でも共通しています。

職員業務効率化 ― 効果測定を最初から仕込む
庁内でも議会でも財政部門でも、動かすには説明できる数字が要ります。このページでいちばんお伝えしたいのは、効果測定を最初から仕込んでおくことの重要性です。生成AIはこの3年で「試してみた」から「実測した」へ移った領域なので、資料では公表値を時系列に並べています。
- 2023.4 横須賀市 ― 全国初の全庁試行
約3,800人が対象。1か月で約50%が利用し、8割超が効率向上を実感
- 2023.7〜 湖西市 ― 実測型で追随
職員発案。仕様書作成1/5・答弁案1/3、8か月で約800時間の削減を実測した
- 2023.11 戸田市 ― コストを定量化
月300万文字≒500時間分を削減し、月額利用料は11万円。費用対効果の説明モデルに
- 2024 都城市 ― 自治体専用AIへ
「zevo」が日本DX大賞2024大賞。年1,800時間想定、年約1,000万円の削減(市談)
- 2024年度 日進市 ― 858時間を実測
Excelマクロ生成などで年858時間。職員の85%が効果を実感したと回答
最初から予算がつく団体ばかりではありません。むしろ、小さく試して効果を測り、その数字を積み重ねて次の規模につなげていく進め方のほうが多いと思います。RPA・AI-OCRも同様で、宇城市は592時間→398時間という実測値を公表しました。規模の壁も薄くなっていて、人口1.5万の当別町では会議録の作成が2〜3時間から約30分になっています。
効果測定を挟まないまま様子を見ていると、差が開きます。生成AIの進化はいまも速く、1年の遅れがそのまま大きな開きになります。対話型の生成AIを使うこと自体はすでに当たり前になっているので、論点はその先にあります。それを使って何をするのか、どの業務にどう組み込むのか、どんな使い方をユースケースとして庁内に示せるのか。ここを積み上げられるかどうかで差がつきます。
もっとも、この前提自体が変わりつつあります。AIを使った開発を組み合わせると、効果とコストのバランスが見込める事業だけでなく、とりあえず作って試してみることもできるようになってきました。試すこと自体の費用と手間が下がってくれば、効果測定の置きどころも今とは変わってくるかもしれません。

推進体制 ― 方式は複数ある
多くの団体で真っ白になっている系統です。人口5万以下では292団体が「1人情シス」で、国は2025年度末を目途に半減させる目標を掲げていました。公開事例を並べると、体制の作り方には複数の方式があります。
都道府県が主導する枠組みが充実している地域もあれば、そうでない地域もあります。都道府県の支援がどこまで使えるのかを先に確かめたうえで、自団体で体制を持つのか、都道府県の枠組みに乗るのかを決めていただきます。ここが最初の分岐になります。磐梯町は人口0.3万人でCDOを置き、デジタルマーケティングでふるさと納税を約20倍にしました。このページで検討事項として添えているのは、4つの型のどれが自団体に合うか、CIO補佐官等への特別交付税措置を使えているか、協働宣言や共同調達を市町村の側から都道府県へ提案できないか、の3点です。

最後の1枚 ― 共通項は「システムから入らない」
先にお断りしておくと、ここまでご紹介してきたのは、いずれも公表資料から見える範囲の話です。庁内で実際にどう進んだのか、どこでつまずいたのかは、その団体に直接伺ってみないと分からない部分もあると思います。そのうえで、5系統を通して眺めたときに見えてくる共通点を、最後の1枚にまとめました。
うまくいっている団体には、共通した進み方があるように見えます。BPR先行 → 数値実証 → 共同調達・本格展開の3段です。北見市の「書かない窓口」が全国モデルになった過程では、様式統合と動線の見直しが先に置かれていました。宇城市や湖西市のように小さく試して削減時間を測れば、議会と財政に「年◯時間・◯円」で説明しやすくなります。そのうえで都道府県の共同利用や国の枠組みに乗せてコストを抑える、という順番です。
自団体は何をやっていくべきか、を考えるときの順番も、この最後のページで扱っています。まず、デジタルの技術が先行したオンライン化にならないようにします。どこが改善できるのか、いまこうなっているからここを変えられるのではないか、というところを先に洗い出します。そのうえで効果がどれくらいになるかを試算し、予算の取得につなげます。
ただ、組織の状態や予算の都合で、そこまで一気に進められないこともあります。その場合は、いま持っているツールやアナログ的な工夫でできるところから手をつけます。あるいは本格導入の準備として、情報システム部門やDX部門がAIを使った進め方を試行錯誤し、効果測定と実証を先に済ませておくのもひとつです。どちらも、次の予算要求のための材料になります。

お手伝いできること
資料そのものより、そこから先の部分をお引き受けしています。
決めるのは自団体で、私がお渡しできるのは判断の枠組みと他団体の実測値です。相性を確かめる場としてもお使いいただければと思いますので、まずはお話からで構いません。
これから
資料を作りながら見えてきたのは、「何を入れるか」より「どう決めるか」のほうで差がついている、という点でした。窓口DXの目的の置き違い、実測を仕込まないままの導入、単独で抱え込む体制。いずれも製品の選定というより、庁内で物事が決まっていく過程のほうに原因があるように見えます。5系統のどこが空白かは、外から見ても分かりません。その確認のための材料として使っていただければと思います。
出典:総務省「自治体DX推進計画【第5.0版】」(2025年12月)、「自治体DX推進参考事例集【第3.0版】」(2025年6月)、「自治体フロントヤード改革推進手順書【第1.0版】」(2025年5月)、「地方自治体におけるAI・RPAの実証実験・導入状況等調査」令和7年度調査(2026年4月公表)、「人材育成・確保基本方針策定指針」、デジタル庁「ガバメントクラウド先行事業 投資対効果検証」、会計検査院検査報告、および各自治体の公表資料(2023〜2026年)より作成。
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